血液ガスの読み方
血液ガス値の異常は、混合性酸塩基平衡障害など、
複雑な病態を示す事も多くあります。
ですから、ステップを踏んで一歩一歩系統的にアプローチしていくことが大切です。
ステップ1: アシデミアかアルカレミアかを判断する
まず、アシデミアかアルカレミアかを判断します。
血液pHの基準値は、7.40 ± 0.05 です。
その範囲を超えて、pH
7.35 の場合は酸性に傾いているのでアシデミアです。
pH
7.45 であれば、アルカリ性に傾いているので、アルカレミアです。
ステップ2: 血液pHの変化の原因が、HCO3-か、PaCO2かを検討する
次に、血液pHの変化の原因が、HCO3-か、PaCO2かを検討します。
血液ガス異常の4つの基本形にあてはめ、血液pHが変化した主の要因を考えます。
例えば、pHが7.32で、PaCO2が40Torr、HCO3-が14mEq/lの場合、PaCO2は正常です。
そして、HCO3-が基準値である24mEq/lから大きく減少しているので、
この場合は、「代謝性アシドーシス」であると判断できます。
ステップ3: アニオンギャップを計算する
次に、アニオンギャップを計算します。
アニオンギャップ(AG) は、AG = Na+ − (Cl- + HCO3-)の計算式で求められ、
基準値は12±2mEq/lです。
血液中には、陰イオン(アニオン)と陽イオン(カチオン)があり、
この両者は平衡状態にあります。
ですから、陽イオン(おもにNa+とK+)の総数と
陰イオン(おもにHCO3-とCl-)の総数は等しくなるはずですが、
測定では検出されない陰イオンも存在するので、同数にはなりません。
この差をアニオンギャップ(AG)といいます。
アニオンギャップは、AG = Na+ − (Cl- + HCO3-)= 12±2mEq/l で求めますが、
K+ は殆どAGに影響を与えないので、計算には入れません。
アニオンギャップ(AG)では、代謝性アシドーシスの病態が、
「AG正常・Cl増加タイプ」、「AG増加・Cl正常タイプ」かを鑑別することができます。
AGの増加は、HCO3-以外のケトン体など様々な有機酸が蓄積していることを示します。
アニオンギャップが増加する病態
アニオンギャップが増加する病態には、
「糖尿病性ケトアシドーシス」、「尿毒症性アシドーシス」、
「アルコール性ケトアシドーシス」、「中毒(サリチル酸・メタノール)」、
「乳酸性アシドーシス」などがあります。
アニオンギャップが正常な病態
アニオンギャップが正常な病態には、尿細管性アシドーシス、下痢があります。
ステップ4: 代償作用の程度をみる
次に、代償作用の程度をみます。
混合性障害(呼吸性と代謝性障害の合併)の有無は、
代償性変化を計算することで判断できます。
すぐに代償反応を開始する呼吸による代償は、以下のように求めます。
「代謝性アシドーシス」
△PaCO2 = 1.2 × △AHCO3-
* HCO3-が1mEq/l減少すると、PaCO2は1.2Torr低下します。
△HCO3-は、HCO3-の変化量です。
「代謝性アルカローシス」
△PaCO2 = 0.7 × △HCO3-
PaCO2の値が予測された数値から±5の範囲内になければ、
混合性酸塩基平衡障害と判断します。
腎臓による代謝作用は、反応するまで数日かかり、
急性と慢性とでは代償の程度が異なるので、以下の式を用いて計算します。
「急性呼吸性アシドーシス」
HCO3- = 0.1 × PaCO2 + 21
「慢性呼吸性アシドーシス」
HCO3- = 0.35 × PaCO2 + 11
「急性呼吸性アルカローシス」
HCO3- = 0.2 × PaCO2 + 17
「慢性呼吸性アルカローシス」
HCO3- = 0.5 × PaCO2 + 5
HCO3-の値が、予測とは違った場合は、別の原因による酸塩基平衡障害があると考えます。
ステップ5: 得られた情報を総合して病態を分析する
得られた情報、そして既往歴や身体所見、他の検査所見などから病態を把握し、
治療法やケアを決定します。
血液ガスは、適切なケアを実践するために読むという本来の目的を忘れないようにすることが大切です。