血液ガスデータによる酸素化の評価

血液ガスデータから、体内での酸素化を評価することができます。
体内での酸素化は、血液ガス分析から得たい情報の一つで、
効率的なエネルギー代謝に欠かすことができない酸素がうまく体内に取り込まれているかどうかは、
様々な疾患に影響を及ぼすので、きちんと評価できるようにすることが必要です。

酸素飽和度とはO2とヘモグロビンの結合率

「酸素化を評価する」とは、
ガス交換によって必要な酸素(O2)がきちんと取り込まれているかどうかを見みることです。
その指標の一つになっているものに「酸素飽和度」を示す「SaO2」があります。
このSaO2をみることによって、ヘモグロビンと結合している酸素の割合をみることができます。

 

 

 

ガス交換によって取り込まれた酸素(O2)は、
動脈血の血漿部分に溶け込み溶存酸素となり、
さらに、溶存酸素の殆どは動脈血に含まれるヘモグロビンに結合されて結合酸素になります。

 

 

 

血液中の酸素(O2)の大半は結合酸素で、溶存酸素は極わずかしか存在しません。

 

 

 

ヘモグロビンは、1gあたり、およそ1.34mlのO2と結合することができます。
ですから、例えば血液100mlの中に、基準値である14gのヘモグロビンがあるとすると、
14 × 1.34 = 18.76 なので、18.76mlのO2がヘモグロビンと結合していることになります。

 

 

 

そして、SaO2は、全てのヘモグロビンとO2が結合している状態=100%が最高値となり、
測定したSaO2の値が100%に近ければ近いほど、酸素化が良いということができます。

 

 

 

SaO2が100%となった状態で酸素を投与し続けても、
既にヘモグロビンは全てのO2と結合している状態なので、
結合酸素の量に変化はありません。

酸素飽和度(SaO2)は、酸素分圧(PaO2)に規定される

SaO2、つまりO2とヘモグロビンの結合率は、酸素分圧PaO2によって変化します。

 

 

 

PaO2が上昇すると、それに見合っただけSaO2も上昇します。
その変化の割合は一定ではないので、酸素解離曲線にすると線はまっすぐになりません。

PaO2値でSaO2値が予測できる

酸素(O2)の多くは、ヘモグロビンと結合することにより運搬されます。
そして、その結合率は、酸素分圧PaO2によって変化します。
PaO2とSaO2が、お互いにどのような関係にあるのかを理解することが大切です。

 

 

 

PaO2とSaO2の標準的な関係を示したグラフを「酸素解離曲線」といいます。
酸素乖離曲線は、横軸がPaO2、縦軸がSaO2で、PaO2の値をみることによってSaO2の状態を理解することが出来ます。
そして、SaO2の値がわかると、PaO2の値を知ることができます。

 

 

 

酸素解離曲線は、形状がS字状(厳密にいうとSを引き伸ばしたような形)になっているのが特徴です。

 

 

 

ヘモグロビンと酸素の結合の割合は、PaO2によって変わります。
しかし、その変化が一定ではないために酸素解離曲線はS字状になります。
これは、ヘモグロビンがO2だけでなく、CO2の運搬機能も有するためで、
酸塩基平衡(pH)に関係しています。

動脈血と静脈血の正常値

酸素解離曲線をみるときには、動脈血と静脈血の正常値を理解していなければいけません。

 

 

 

動脈血

 

 

 

動脈血のPaO2の正常値は100Torrです。
ただ、患者さんの年齢の幅や病態による違いを踏まえて、
80〜100Torrを正常値としています。
そして、このときのSaO2の値は95〜97%で、この数値がSaO2の正常値となります。

 

 

 

一般的に、侵襲性の高い検査である血液ガス分析の測定は、頻繁に行われることはありません。
その代わりに、臨床の現場では、
パルスオキシメーターによる「経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が用いられています。

 

 

 

SpO2が95%以上であればPaO2も80〜100Torrの正常値にあると考え、
逆に95%を下回るようであれば、正常値よりも低下していると推察し、治療やケアについて検討します。

 

 

 

静脈血

 

 

 

静脈血の正常値は、PaO2が40Torr、SaO2が75%とされています。
正常な状態であれば、ヒトは心臓から抹消まで血液を循環させ、
血液中のO2のうち25%を体内の組織へ放出していると考えられています。

SaO2の変化率は一定ではない

SaO2の最高値は100%です。
それ以降は酸素量が増加しても値は一定で、
酸素解離曲線は、SaO2の100%を上限にして、PaO2が60Torr、SaO2が90%より高い状態では、
緩やかなカーブを描きます。
ですが、この値を下回ってしまうと、カーブは急角度で下降します。

 

 

 

つまり、PaO2の値が少し低下しただけで、SaO2の値は大きく低下します。

 

 

 

PaO2が70Torrから60Torrへ下がる例では、
SaO2は93%から90%へと3%低下します。
また、PaO2が60Torrから50Torrに下がる例では、
SaO2は90%から80%へと10%も低下します。
この場合、どちらの例もPaO2は10Torrしか低下していないのに、
SaO2には大きな違いが生じます。

 

 

 

臨床の場で、「サチュレーションを92%以上に保つように」と医師が指示しますが、
これは、このポイントを下回ると一気にSaO2が低下してしまうためです。
PaO2の値が少し低下しただけで、SaO2の値は大きく低下しますから、注意が必要です。

血液ガスデータによる酸素化の評価の仕方

酸素化の評価を行う時には、最終的には主な指標であるPaO2とSaO2の両者を見て評価します。
ですが、血液ガスデータをみるときには、SaO2はPaO2で規定され、
PaO2に変化があると基本的にSaO2に影響が出るため、まずPaO2の値をみます。
ですから、酸素化を評価する場合、Pa2O2の値の目標をどこに置くかが重要になります。
ポイントとしては、PaO2の正常値だけでなく、
患者さんの年齢や基礎疾患、現時点での病態の3つの要素を合わせてアセスメントします。

 

 

 

PaO2の評価

 

 

 

重篤な低酸素血症: PaO2 < 40Torr (SaO2 < 75%)

 

 

 

低酸素血症: PaO2 < 60Torr (SaO2 < 90%)

 

 

 

基準値範囲: PaO2 > 80Torr (SaO2 > 95%)

 

 

 

(1) 患者さんの年齢をみる

 

 

 

PaO2は、年齢によって正常値が異なります。
年齢ごとの正常値は、一定の計算式で求められ、
通常、酸素化の目標値はPaO2を80Torr以上に設定することが多いです。

 

 

 

年齢に応じたPaO2の正常値の求め方

 

 

 

仰臥位 : PaO2 = 100 − 0.3 × 年齢

 

 

 

座位 : PaO2 = 100 − 0.4 × 年齢

 

 

 

計算式では、70歳では79Torrとなり、80Torrを下回ります。
つまり、10歳代だけでなく20歳代の場合には、100Torrを目指しても良いですが、
70歳以上の患者さん場合はあまり高い数値を求めなくてもOKだということになります。
例えば95%くらいの患者さんであれば、計算式で求められる数値より、
もっと低くても大丈夫なケースもあります。

 

 

 

(2) 患者さんの基礎疾患をみる

 

 

 

患者さんが、心筋梗塞や不整脈、喘息の発作や貧血などを有する場合は、
酸素化の目標数値を高めに設定することが必要で、
このような基礎疾患がある場合は、サチュレーション(SaO2、SpO2)100%を目安とします。

 

 

 

ですが、COPDなどの病態の場合は、もともと安定時のPaO2の値が低いことがおおいので、
目指す目標は90%以上になります。

 

 

 

(3) 患者さんの現時点での病態をみる

 

 

 

患者さんの現時点での病態をみて、バイタルサインに変化があるときには、
何L(リットル)/分の酸素投与をすると、どのくらいのサチュレーション、脈になるのかを考えます。

 

 

 

例えば、どんどんサチュレーションが下がっている時に、
COPDだからといって酸素投与を控えていると、呼吸困難が悪化するばかりです。
サチュレーション90%を維持するためには、どのくらいの酸素投与が必要であるのかを評価することが必要です。

 

 

 

このように、酸素化を評価するときには、
患者さんの年齢や基礎疾患、現在の病態を踏まえたうえで、
現在の酸素吸入の方法をアセスメントする必要があります。

 

 

 

そして、治療で目標とする数値も、
基準値はあくまでも目安であると考え、対処していくことが大切で、
患者さん個人個人の状態に応じて目標数値を設定していくことが必要です。


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